出店者名 にゃんしー
タイトル 赤ちゃんのいないお腹からは夏の匂いがする
著者 にゃんしー
価格 500円
ジャンル 純文学
ツイートする
紹介文
鉄道に区切られた閉鎖された村、夏水(なつみ)。
モクモクとコビールを窓際に供えて夜這いを待つという昔からの風習も、
子どもを生んでいない女性が持つ穢名という制度も、
都会のドラッグストア「エデン」の流入によって薄れてきたはずだった。

年に一度の海祭りで妹のヒカリが巫女である「カミサマ」に選ばれたことによって、
生み生まれることを強く望む夏水の呪いを知る。

命の形を問う純文学。
群像新人文学賞一次通過作。

「僕は好きな女の子がいてね」
 まずは、自分の話をさせてもらうことにした。
「昔好きだった人に似てるんだ。まあその女の子は、僕の娘なんだけどね」
 最後の一言で、少年Hの目に興味が宿ったのが分かった。
「へえー、もう、ヤッたんスか?」
 ああ、こんな喋り方をするんだ、と思った。僕は首を横に振る。
「ヤッてないし、ヤる予定もない。でも、これが終わって帰ったら、海に行こうって誘われててね」
「ヤッたらいいッスよ!」
 熱に若干冒されていたのか、興奮した様子で、少年Hは声をあげた。
「夏水の海がいいッスよ。遠くまで砂浜があって、波が少なくて、鏡みたいに青い空が映ってるんス。スイカとかソーメンとかクソ安くてうまいんで、それ食って、泳いで、ヤッたらいいッス。あ、でも」
 少年Hは表情を曇らせた。
「この事件が解決しないと、海行けないんスよね……」
 最初は大人びているようにも感じたが、純粋で、可愛い少年なんだ。
「実の娘だよ? ヤッてもいいものかね?」
 僕が尋ねると、少年Hは無邪気に笑った。
「ああ、そういうの、夏水では全然大丈夫なんス。みんな血縁の近い、家族みたいなもんなんで。きょうだい同士の結婚とか、子作りとか、よくあるんスよ。それに」
 少年は、男の表情になった。
「これだけは、絶対に言えます。好きな人とは、ヤッたらいいス」
 拳銃の安全装置を解除して、拳銃を僕と少年Hとの間に転がした。
「夏水の話を、してくれるかな」
 僕は本題を切り出した。
「裸だと、やましいことを考えていると、すぐに分かる。僕がもし勃起したら、君は僕を撃ち殺してくれていい」
「じゃあ、もし俺が勃起したら、俺はおじさんに撃ち殺されるわけッスね」
 少年Hは、思いつめた表情で僕を見た。その畏れのない顔付きを見て、「この少年が殺意を交わすのはこれが初めてではない」と感じた。
「もし両方勃起しなかったら、俺、無罪ってことなんで、おじさんと、娘さんに、夏水の海を案内しますね。でも、もし、両方勃起したら」
 少年Hは、夏水の話を始めた。
「セックスは、夏水では、死にたい少年たちの遊びだったんです」


横たわる穢れ、澄みわたる夏空
 とある閉鎖的な集落を舞台に繰り広げられる、生命力あふれる長編純文学小説。
 そのエネルギッシュさと独特のエロティシズム、そして何と言ってもにゃんしー氏最大の特徴である、文章全体に横たわる穢れ感を全力の筆致で描いている様が圧巻である。
 非文明的な、あるいは土着宗教的な「穢れ」を描くことに関してこれだけ確固たるスタンスで独自のイディオムを築きあげる書き手をぼくは寡聞にして知ることがなかった。
 ある意味では「ごうがふかいな」の極致に存在する小説ともいえるし、究極の「童貞小説」とも呼ぶことのできる代物で、まさに純文学と呼ぶに異論のない小説といえるのではないかと思う。それほどまでに濃密で重たく、文章全体にまんべんなく横たわる穢れと、それとは打って変わって描き出される澄んだ感情表現とどこまでも青い夏水の空が、どこまでも読み手に余韻を残す。

 ぼくはなぜか、雲一つない夏空に消えていく、高校球児の打球を想った。
推薦者ひざのうらはやお

夏のいのちは汗をかき、精を放つ。
 血や汗や精液、むわっとにおいが沸き立つ小説です。読むことが楽しくて気持ちよくて仕方なかった! にゃんしーさんの文章は前へ前へと進んでいく力があふれていて、お話と文章とのリズムが身体を高揚させるなあと思います。
 わたしは藤木と少年Hが取調室で全裸対決するシーンがいっとう好き。ひどいことがたくさん起きるのに、どろどろしているのに、たくさん血も流れるのに、夏水という土地にいってみたいと思ってしまうのはなぜなんだろう? 海祭りとか野球場とかコビールとかモクモクとか、どうしてか魅力的にうつるのです。登場人物たちもそう。実際に目の当たりにしたらけっこうこわい人たちかもしれない…でもどこかカラッと明るくてチャーミングなんだ。ひとってそういうものかもしれないなあなどと考えながら読みました。愛情と劣情と残酷を、ひとは同じ口や手足でやってのける。
 物語が進むにつれ、視点はどんどん変わってゆきます。舞台から去った人が心の奥底で何を考えていたのか、観客(読者)にはほんとうのところはわからない。物語は加速して、飛躍する。ああ、夏を生きてるんだなあ。暑い日に読んでムラムラしたい本です。
推薦者オカワダアキナ

夏海はここだ
ここで見て読みたいと思った。文フリで自ブース空けて買いに行った。引きずり込まれて一気に読んだ。電車移動中に片手に鞄を掛けると腕が重い。でも読んだ。旅先だったがホテルの湯船でも読んだ。スターブックスの製本がやけにカッチリ、ノドが開きにくく読みづらかった。関係ない。左右に傾けながら走り抜けた。
普段私は読書をしない。地元に好きな書店もない。フィクションを読むのは久しぶりだと思う。よい本に出会った。おもしろかった。
おもしろかったけど、今開いて部分的に読み返すと、痛い。今度は読み進められなくなった。
そして夏海はここだと思った。鉄道は最寄り駅が最寄っていないし架線がないから電車じゃなくて汽車だ。子を産むことへのプレッシャーが強いが夜ばいの習慣はない。ただしセックスするのは恥ずかしいこと、だったら結婚して子づくりしなさいという空気。瀬戸内の海に面した孤島で、引き潮でつながる島がある。子供が冒険心で渡る島。私も渡って、満ち潮になる前に戻ってきた。危ない遊びはしていないが、ここまで情景が揃えば十分だ。
夏海はここだと思った。そして私はババアだと思った。理由は言いたくない。自分や身の回りを投影する作品にはそうそう出会わない。
それが余計に、痛い。
推薦者正岡紗季

タイトル・章タイトルがヤバい(語彙力。
読んでいくうちに、(人を)好きと言う気持ち、子作り、セックスの意味や内容が
わからなくなってくる。

読書とは、こういうことだったなあ。
自分だけでは考えもつかない人の行動を見たり、知識を得たりできる。

閉鎖的な村が舞台で、その場所にしかないものや風習があっておもしろいなあと思いました。
にゃんしーさんの作品では、「ともだちの国」も閉鎖的な場所を舞台にしているけど、
その登場人物たちが作中であっけなく一度はその村を電車に乗って、あるいは車で、
出て行くのがすごい。
電車は(本数は少ないけど)あるし、道路も通っているから、
物理的に、出て行くことは何にも難しくないことなのだ。

あと章タイトルがとても衝撃的で、思わずその内容を読みたくなってしまうので、ここに
紹介させてください。


一、夏水の少年はババアで童貞を捨てる
二、カミサマは子どもを作ってはいけない
三、気持ちいいことは全てタモリが教えてくれた
四、カミサマの子宮は命で満たされる
五、エデンでは子作りができない
六、夏水の生理は命より重い
七、生まれてくる子どもはカミサマの血に塗れている

これだけ読んでも通じる文章と、内容を読んでから
「ああ、これはこういう意味だったのか……!」とわかる章タイトルが素晴らしいと思いました。

あ、私はババアと小夏の作った関係がとても好きです!
推薦者壬生キヨム



推薦する
お名前
メールアドレス
推しコピー
推薦文(1000文字以内)

セキュリティ文字 「あまぶん」と入力してください