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異世界へ潜り込んで何かを得て失って知る話かもしれません。主人公さくらは選択した不可抗力で汐音に流れます。目的地・田中建築事務所で出会う面々も訳あり。それぞれにハイスペックな人間が落ちてきたように見えます。それは失敗だったのか。負けなのか。じゃあ勝ちってなんだ。そう問われる作品、というよりはそれを疑っていい作品でした。やさしい。一回負けても終わりじゃないと言われた気がします。説得力を伴って。 概ね成長物語だと思います。臨場感が溢れていて、居場所や役割を見つけ充実していく展開には我が事のように高揚しました。物事が暴かれていくのにゾクゾクし、最悪の事態には一緒になってアップアップしました。 物事出来事の一つ一つは白とも黒とも決められないグレーの濃淡で、大小の社会(1人対1人だったり家族だったり会社だったり)のうねりが世界を揉み動かしていく。読後、現実に起きたある事件を想起するかと思います。モチーフに過ぎないので実際どうだったのかは別の問題として、良し悪しの決められない小さな無数の出来事はむしろ夢と志と善意の賜物で在る。無数のボタンを夢中で合わせていくうちに少しずつ掛け違えて攣れて大きな力がかかり、合わせたボタンがバラバラっと全部落ちてしまうことは少なくない。 で、失敗だったのか。負けだったのか。じゃあ、勝ちってなんだ。価値ってなんだ。あなたにとって、○って何ですか? そしてそこで何を見るか。 数々の問題提起がある。答えを探しに行く余地がある。これは愛です。成長物語と書きましたが進歩も後退も停滞もそれぞれに成長でしょう。さくらは汐音に来て初めての変化を得ます。でもやっぱりさくらはさくらだと思うのです。人は変われるし、変わらなくてもそれでもいい。ダメでもいい。大らかなヒカリを感じます。時に眩しさは痛みとなりますが。 文脈に落とし込まれた、宇宙と世界と社会(家)の在り方や表現が好きです。いろんな光が見えます。それぞれの光の表現が素敵です。 大小のどんでん返しも見事というか、やられた! と思いました。 汐音の人はいびつな社会から弾かれて逃げ延びてきたかもしれません。でも逃げたらいいと思いました。落ち延びてもそこで生き延びればいいと思いました。元の社会をくそくらえだと思いました。 私にとって、この本は愛であり、優しさです。 ただし寝不足にお気をつけて。 | ||
タイトル | 田中建築士の家 | |
著者 | にゃんしー | |
価格 | 800円 | |
ジャンル | 大衆小説 | |
詳細 | 書籍情報 |
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ここで見て読みたいと思った。文フリで自ブース空けて買いに行った。引きずり込まれて一気に読んだ。電車移動中に片手に鞄を掛けると腕が重い。でも読んだ。旅先だったがホテルの湯船でも読んだ。スターブックスの製本がやけにカッチリ、ノドが開きにくく読みづらかった。関係ない。左右に傾けながら走り抜けた。 普段私は読書をしない。地元に好きな書店もない。フィクションを読むのは久しぶりだと思う。よい本に出会った。おもしろかった。 おもしろかったけど、今開いて部分的に読み返すと、痛い。今度は読み進められなくなった。 そして夏海はここだと思った。鉄道は最寄り駅が最寄っていないし架線がないから電車じゃなくて汽車だ。子を産むことへのプレッシャーが強いが夜ばいの習慣はない。ただしセックスするのは恥ずかしいこと、だったら結婚して子づくりしなさいという空気。瀬戸内の海に面した孤島で、引き潮でつながる島がある。子供が冒険心で渡る島。私も渡って、満ち潮になる前に戻ってきた。危ない遊びはしていないが、ここまで情景が揃えば十分だ。 夏海はここだと思った。そして私はババアだと思った。理由は言いたくない。自分や身の回りを投影する作品にはそうそう出会わない。 それが余計に、痛い。 | ||
タイトル | 赤ちゃんのいないお腹からは夏の匂いがする | |
著者 | にゃんしー | |
価格 | 500円 | |
ジャンル | 純文学 | |
詳細 | 書籍情報 |
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泉由良さん『ウソツキムスメ』すごく良かったです、震える。 身近にある・ありそうな・なくてもあると言われたらそう思えてしまう短編群。登場人物の世界で続いていく物語の中で切り取った時間はほんの少し。読まねばならぬ部分だけを厳選して端正に描かれた、現実的なおとぎ話のようでした。 読者として傍観しながら否応なくに至近距離に立たされる、とにかく魅力的です。 読むテンポが寄り添うのに現実感がありあまる。溺れるように惹き付けられて読みました。 由良さんの描くものの美しさに対して私は早漏に過ぎるのですが、溺れずに読み切って直後に耽溺する。という読書体験を得ました。ものすごいカタルシス。 ほろっと、しかしぽろぽろと、泣かされます。 | ||
タイトル | ウソツキムスメ | |
著者 | 泉由良 | |
価格 | 600円 | |
ジャンル | 純文学 | |
詳細 | 書籍情報 |