出店者名 白昼社委託
タイトル ゆきのふるまち
著者 くまっこ
価格 450円
ジャンル ファンタジー
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紹介文

『バスはわたしと蒼子ちゃんだけを乗せて、しんしんと雪の重なる夜の坂を登ってゆきます。ギシリギシリと雪を鳴らしながら。』


舞台は年中雪の降りしきる町、雪町。庶民は町外に出ることのできない、完結された町。
町をめぐるバスの終点「丘の上のお屋敷」でともに暮らす三人の女の子たちが、ときに悲しみに出会いながら、誰かの優しさに触れながら、自分に向き合ったり、誰かに頼ってみたり、何かを信じたり、何かに気付いたり。
ひたむきに、前を向いて、日々を暮らしてゆく物語。

パティシエを目指しながら、喫茶店で働く結衣。
幼馴染みに寄せる想いに悩む、ショップ店員の蒼子。
隣町が見渡せるお屋敷の持ち主、香苗。

――彼女たちの物語がそれぞれ、オムニバスで綴られている一冊です。
 


 カララン、と扉についた鈴の音と一緒に心地良く通る声が響いて、華奢なステンドグラスで飾られたドアが開いたと思えば、もう蒼子ちゃんはカウンターに座っていました。午後六時ちょうど。お仕事の帰りです。
「蒼子ちゃん、おつかれさま」
 わたしがハーブ水とお手拭きをテーブルに置くと、蒼子ちゃんは「ありがと」と言って掛けていた眼鏡を外し、にこっと笑いました。
「カフェモカおねがい。もう寒くて」
 クールな見た目と違って甘いものが好きな蒼子ちゃんが頼むのは、いつだってカフェモカか甘く入れたカフェオレ。今日みたいな寒い日は、もちろんホット。
「雪、降ってきたんだね」
 ステンドグラス越しに見える風景はグレーがかっていて、いつのまに降り始めていたのか、大粒の雪がガラスにぴたりと吸い付いては、溶けながら重なってゆきます。先日積もった雪が少し溶けてきたばかりだけれど、明日にはまた、地面は一面の雪に覆われるのでしょう。
 ここは、週に一度は雪が降る雪深い町――雪町。寒い日も寒くない日も、雪はいつだって傍らにあって、わたしたちは雪とともに暮らしています。
「マスター、本日のブレンド百グラムね」
 カフェモカを待たずに蒼子ちゃんはそう言うと、鞄から珈琲缶を取り出してカウンターの上に置きました。本日のブレンドというのは珈琲豆の注文で、これは香苗さんのです。
 香苗さんというのはわたしと蒼子ちゃんのルームメイトで、美しい幻想小説を書いている小説家さん。香苗さんの書くお話は、わたしには少し難解なのだけれど、読書好きのひとたちには人気があるようで、気が付けばいつも締切に追われているようでした。
 そして執筆中の香苗さんは家から一歩も出ないので、いつも蒼子ちゃんにおつかいを頼むのです。珈琲豆ならわたしに頼んでくれればいいのに、と思うのだけれど、それだとマスターが気を遣ってお金をとらないので嫌なのだとか。そういう几帳面な香苗さんを、わたしは尊敬しています。
 香苗さんの空いた珈琲缶を丁寧に拭いて、ペーパードリップ用に挽かれた豆を注ぎこみ、トントンと缶の脇を軽く叩いてならして蓋を閉めると、蒼子ちゃんは目くばせをしてわたしを呼びました。足元に置いた大きな手提げの紙袋を見せて「これ、またお願いね」と言います。紙袋には、蒼子ちゃんが働いている洋服屋さんのロゴが品良くプリントされていて、わたしは小さく頷きました。
 


彼女たちを抱きしめたい
 あたたかな紺色のベルベットで仕立てられた、ワンピースみたいな装幀だ。角が丸く、掌にのる大きさ、頁に控えめに飾られたレース模様がそのまま、その上等なスカートの裾飾り。「ゆきのふるまち」にふさわしい、からだを包む綺麗なやさしいワンピース。そんな印象の文庫本。

 けれどもひとたび読み始めてみると、登場人物たちはそのお菓子のような世界だけにとどまっているわけではないと知る。そうだね、生きていくことはかなしいね。作者の文章はそのものがたりを、丁寧に丁寧に、綴ってゆく。ただただスイートでない世界でも、心が消えてしまうことは無い。仕立ての良いワンピースに包まれていた、透明な涙。それを包む著者の穏やかな筆致。

 そうだ、やさしさもやわらかさも、かなしみと共に描かれたとき、なおさら尊く、いとおしくなる。彼女たちを大切に抱きしめてあげたい。
 
推薦者泉由良

 
独特のルールのある「町」を舞台に女の子3人の和やかな友情がかわいらしく、それだけにエンドがつらい。
あったかくて切ない。優しい嘘は優しくない……。

装丁の統一感とか、ふわふわで内容のイメージどおりで、凝ってるし丁寧だなあ〜と感心します。
かわいいなあもう。
推薦者まるた曜子

 
まず、最初に受ける印象は「めっちゃ可愛い〜о(>∀<)о!!」です。
くみた柑さまの綺麗なイラストと、ブルーチェック柄の表紙が素敵です。
しかも、最後まで読めば分かるのですが、このデザインにもちゃんと意味が
あったりするのがまた心憎い演出なのです…!!
中表紙と奥付に描かれていた観覧車の絵も大好きです。あと、本文ページを飾る
レース柄も…!!知っていたつもりではいましたが、くまっこさんのデザイン力の
高さに、改めて惚れ惚れさせられる、クオリティの高い美しい本になってます。
しかもフォントも文章も、いつものことながらとても読みやすいのです(^∀^)ノ

…というわけで、内容についてなのですが。
まずは作品の舞台となる、雪町、という町の持つ優しい雰囲気に癒されます。
出てくるお店やおうちの暖かな雰囲気、そこに住む人たちの優しい思いやりの
心が、ささくれ立った現代人(=私)の心に超滲み入るのであります…!
閉ざされた町のなかをゆっくりと流れる時間に浸る心地よさ。これってとても
大事ポイントですよっみなさん…!
渡る世間にささくれ立っているのは私だけではないはずですから!!

この作品は5つの掌編で構成されています。主に三人の女の子と一人の男性が
登場するのですが、それぞれのお話を読み進めるうちに彼らの個人的事情が
少しずつ分かるようになっています。
さっき書いたように、全体的に優しくゆるりとした雰囲気のお話ではあるのですが、
後半に行くにつれ、この人たちの抱えているものが色々と明らかになってきて、
最後で綺麗にまとまる構成が素晴らしいです;;
5つのお話であると同時に、ひとつの大きなお話でもあるように作られている
ところがすごく気持ちよかったです。
悲しいような、でも、優しく温かく希望を感じるラストが秀逸でした。
ささくれて汚れた現代人(=私w)の心も、洗われるようでありました…!
推薦者まりも

心のかけらを手にするような
出ることが難しい自分の町。
見えるけれども行けない隣の町。
町の話であると同時に「自分」と「他者」の暗喩のようにも感じられる。

空想の中でしかたどり着けない他者。
そこでようやく知ることになる日常の美しさ。
読んでいるうちに自然と目が潤む。

装丁・フォント・本文ページの装飾など、本のデザイン全てがこの物語のために繊細に選ばれており、読み直すたび、心のかけらを手にするような気持ちになる。
推薦者柳屋文芸堂

優しさの雪が降る
お話はもちろん、表紙イラストや装丁、すべてを含めて一つの物語であり本であり、余すところなく楽しめるようになっている作品で、とにかく大好きです。

辛いことや悲しいことがあっても、むしろあったからこそ、人は優しくなれることがある。誰かの幸せを願うことがある。自分がつかめなかったものを、誰かに託すことがある。自分が辛かったからこそ、誰かには、幸せになってもらいたいと願うことがあるのだと、そう感じた物語。
推薦者なな

まるで手帳のようなデザイン本で、読み手をカラフルな世界に連れていってくれるようなストーリー
題名の通りシンシンと降る冬の中のひっそりとした
世界観で、3人の女の子がそれぞれの人生を見つけ
歩いてゆく話です。
独特の文体が、乙女の心をくすぐる作品へと
変化させている気がします。
ぜひ一度ご賞味あれ(笑)
推薦者第一回試し読み会感想