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──僕たちは(この書評については、私の一人称は「僕」になるのだ)この書籍を一読では理解出来ないだろう。理解、ではない。恐らくそれは「解析」だ。解析、出来ないだろう。ここにあるのは古からの時間……いや、違う、進化……違う、記憶? いや、思いで。共にい続けることの出来ないままの、少年たちの交感。 この部分だけでも思い浮かべてみて欲しい。 魚がその胎にH2Oを内包しているとしたら、それはそこに空がひろがっているからだよ。海沙貴のなかにはひろい海がある。柳臣は森を持っている。君はきっと、……空を持っているね。 (引用、一部省略) 少年のなかには世界が内包されている。その広過ぎる途方も無さを封じ込めている、それがこの本の尊さだ。 喩えば古い小壜に海水に晒され続けて読めないような地図が入っていて、海辺に到達したときを僕は連想する。解読出来ない地図を、それでも僕は大切に取っておく。いつか意味が解る日まで、何度も何度も見返してしまう。まだ分からないその詩語を。まだ分からないその組成図を。そしてあるとき、この本の表す教唆に打たれて、僕はそのとき、きっと泣いてしまう。 ……でもこんな風に遠回りのような案内をせずとも、本当は、この本はただ、重なりゆく暗喩と少年の示す美しい螺旋に酔う悦楽であって、つまりは読書の醍醐味である。 | ||
タイトル | Last odyssey | |
著者 | 孤伏澤つたゐ | |
価格 | 300円 | |
ジャンル | JUNE | |
詳細 | 書籍情報 |
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あたたかな紺色のベルベットで仕立てられた、ワンピースみたいな装幀だ。角が丸く、掌にのる大きさ、頁に控えめに飾られたレース模様がそのまま、その上等なスカートの裾飾り。「ゆきのふるまち」にふさわしい、からだを包む綺麗なやさしいワンピース。そんな印象の文庫本。 けれどもひとたび読み始めてみると、登場人物たちはそのお菓子のような世界だけにとどまっているわけではないと知る。そうだね、生きていくことはかなしいね。作者の文章はそのものがたりを、丁寧に丁寧に、綴ってゆく。ただただスイートでない世界でも、心が消えてしまうことは無い。仕立ての良いワンピースに包まれていた、透明な涙。それを包む著者の穏やかな筆致。 そうだ、やさしさもやわらかさも、かなしみと共に描かれたとき、なおさら尊く、いとおしくなる。彼女たちを大切に抱きしめてあげたい。 | ||
タイトル | ゆきのふるまち | |
著者 | くまっこ | |
価格 | 450円 | |
ジャンル | ファンタジー | |
詳細 | 書籍情報 |