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17の小説と詩が掲載されているこの本は、とてもリアルで、とても歪でした。 リアルなのは、きっと著者が実際に体験されたことを書かれているせいではないでしょうか。実際に起きたことを書いている匂いがします。 歪なのは、世界そのものであったり、人の一部であったり、心の在り方だったり。 ソヨギという服だったり、白い袋がくらげだったり、花を食べたり、冷凍みかんを書くことだったり、色の捉え方だったり、自転車が落下する絵だったり、他人の家の植木鉢に興味を持ったり…… いえ、それを歪といっていいのか、本当のところはわかりません。 人によってはそれは歪でもなんでもないかもしれません。 ただ、例えば常識とか、社会とか、そういう一般的といわれるものと比べると、歪な気がするのです。 この歪さの正体を辿っていったとき、この本は、物語というよりも、思想のように思えました。 一番強く感じたことは、世界が怖いところであるということ、けれども、やさしくあってほしいと祈っているということ。 2011年、東日本大震災の年に書かれた作品ということも関係しているのかもしれません。 この本に、著者の気持ちに、ふれてほしいと思う一冊です。 | ||
タイトル | soyogui, その関連 | |
著者 | 泉由良 | |
価格 | 500円 | |
ジャンル | 純文学 | |
詳細 | 書籍情報 |
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短編集は、一冊にひとつの話が入っている本に比べると、一つひとつの話にあまりのめりこめない気がするのですが、この本の掲載作品は、どれものめり込ませます。 一つひとつの小説に、かたちの異なる狂気が潜んでいて、それがぶわっとふくらんで、読者を小説の世界に引きずり込んでいくようです。 一番手にふさわしい、印象に残る作品「アイネ・クライネ・ナハトムジーク the forth person」。多重人格者の少女の話。劇を見ているような気分になります。ラストがすごい。 「欠如のこと my sixth hole」は二番手にふさわしい作品。すごい軽さで魅せてきます。 「海に流す goodbye from seaside」は、嘘をついた少女と、その告白をきく嘘つきな僕の話。嘘をついて、つきつづけて、そこから抜け出せなくなった少女の告白が切実に突き刺さります。 心地よい浮遊感が味わえる「落ちてくるくじら the fallen whale」。暑くて、気だるくて、その中でぼんやりと見る、あるいは想像する、悪夢のようで、どこか滑稽な、愛おしい夏。好きです。 音信普通になった妹を案じる姉の心境を描いた「秋雨秋子」。この短編集の中で一番リアル色が強く、ひと休みしている感じがします。 ナナンタさんと、その鈴にまつわる、やさしくてあたたかい記憶たち「ナナンタさんの鈴の音」。その記憶は、やさしさは、あたたかさは、愛情は、子どもの胸に残り、大人になってもなお支え続けてくれるでしょう。そこに嘘があったとしても、嘘以上の愛情が抱きしめてくれています。一番ストレートに愛が感じられる作品。 「春眠」はいちばん狂気性と中毒性が高い作品。飾り窓のお姉さんと、小学生の女の子、その出逢いと別れの春。春と桜の狂気性がとても色濃く滲み出ています。少しずつ少しずつ、リアルが幻想に侵食されてゆく過程に酔いしれます。 「翳り」は、夏至を過ぎた夏の夕暮れ、それを眺める妹と姉のひととき。何気なく語られる姉の話は嘘か真実か。現実であるはずなのに、それが少しずつ遠くなっていく。夏にさらわれていくよう。 さまざまな作風が味わえて、掲載順もよく考えられている、読者が楽しむことを考えて作られた一冊。 泉由良さんの小説を初めて読む方におすすめしたいです。 | ||
タイトル | ウソツキムスメ | |
著者 | 泉由良 | |
価格 | 600円 | |
ジャンル | 純文学 | |
詳細 | 書籍情報 |
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吸血鬼の物語として、短編集として、楽しめる一冊でした。 全部で6つの作品が掲載されていますが、ひとつひとつ物語のテイストや吸血鬼のイメージが異なるのが魅力的です。 「血族」は吸血鬼の美しさが夜ごとに増していくような物語で、耽美的な雰囲気を味わえます。 「黒い海、祈りの声」は人間と吸血鬼の怖さが迫ってくるホラー小説。さまざまな意味で怖い。 3作目は「血族」と「黒い海、祈りの声」に登場した吸血鬼たちをつなぐ幕間の物語。シリアスな雰囲気が続いていたところにゆるやかな空気が流れます。この次の、少し長くて重いお話を読む前のひと休み。 4作目は異世界の吸血鬼を描いた「望まれざる帰還」。隧道工事というマニアックな内容をメインとしながら、神話と歴史、その隠された部分に光を当てた作品。短編集の中で唯一他とつながりのない物語。全部同じ世界感で通したほうが一冊としての一体感は出ると思うのですが、そこに別の物語を入れることで不思議な面白さが出ています。お話自体も一番長く重く、読み応えがありました。 5作目、「ブカレスト、海の記憶」。ひとの視点から語られた吸血鬼モノ。ゆるやかな感情が渦を巻いてとき離れていくような物語。 そして終幕は「血族」「黒い海、祈りの声」「ブカレスト、海の記憶」に登場する吸血鬼たちの夜。吸血鬼たちの物語はこの後も続いていくのだと予感される終わり方で、サブコピーの「吸血鬼たちの夜の物語集」にぴったりでした。 吸血鬼が好きな人にはもちろんですが、吸血鬼モノは読んだことがない、という人にもおすすめしたい一冊です。 それから、短編集をつくってみたい、または今まではとはちょっと違う短編集を、と思っている人にもおすすめ。 物語ひとつひとつのテーマがはっきりしていて、そのカラーがきちんと出ているのはもちろん、それらをつなぐ物語にも役割をもたせています。読者の呼吸を意識した掲載順でとても読みやすかったです。 また、前述した通り、短編集の中にひとつだけ別世界の物語がありますが、おそらくその物語と他の5作品の重さ、みたいなものがちょうど同じぐらいな感じで、それが本の真ん中にあることでとても良いバランスが保たれた一冊になっていると思います。ここまで計算してつくられたのだとしたら凄いなぁと。 自分が短編集をつくるときにお手本にしたいです。 | ||
タイトル | Et mourir de plaisir | |
著者 | 宮田 秩早 | |
価格 | 500円 | |
ジャンル | ファンタジー | |
詳細 | 書籍情報 |