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倫理を諭す御託など無粋。慈悲を集る涙など幼稚。ただ奪え。ただ騙せ。ただ殺せ! 死してなお暴虐を尽くすことを欲した、イカれたヤツらのイカれた戦場を描いた長編、それが『ヘブンズ・ドアー』です! 舞台は死後の世界《ヴァルハラ》。ある資格を持つ魂が誘われるこの世界では、やがて来る終焉の後、新たに生まれ出でる世界での覇権を握るべく、各国家戦力が日々闘争を繰り広げています。争いあうのは現世に実在したアメリカ、ソ連、イギリス、フランス、ドイツ、中国、韓国、日本――辿りついた兵士たちの魂は、死してなお母国へ帰従し、ヴァルハラでの版図を広げんとその猛威を奮います。 殺戮のための異能を携えたナショナリティ豊かな戦士たちの群像劇、その中心にいるのは三人の少女。あの世とこの世の橋渡しの場である《ヘブンズ・ドアー》、その看板娘である依子・紅玉・エミリーは、可憐ながらも強靭に戦場を駆け回ります。殺伐とした世界の中にある彼女たちの純粋な友情は清涼剤のように爽やかです。が、その絆を彩るのが銃撃と剣戟というのが、またなんとも本作らしい点であります。 彼女たちを軸に、KGBの不死身の大尉、イタリアン・マフィアの豪傑なる女頭領、ドイツ騎士団を統べる勇壮な姉弟、真意の読めぬ日本武士――一癖も二癖もある戦士たちが所構わず暴れまくる物語は、シンプルで荒々しい筆致で綴られ、故に戦場の只中のような臨場感を持って描かれます。彼女等の狂騒に満ちた哄笑が聞こえるようで、気づけば夢中で読み進めてしまうのが恐ろしいです。 登場人物の操る異能もさることながら、彼や彼女が巻き込み巻き込まれる争いの数々もなんともエキセントリック。英国を震撼させたジャック・ザ・リッパーの正体。化け物じみた戦闘力を持つメイドと執事の秘密。各国に争奪戦をもたらした人魚の願い。それらに対峙したとき三人娘が迎える結末は、当然綺麗事では済まされません。そこに一切の慈悲はなく、一片の躊躇もない。しかしすべてが終わった後、気づけば心に透明なかなしみが結晶している――そんな不思議な読後感があります。 これはまさしく、作者様をおいて誰にも描けない唯一無二の作品です。ぜひ全身総毛立つあの世の世界大戦を見届けてください! あとクリスティーナ姉ちゃんマジ天使。これマメな。 | ||
タイトル | ヘヴンズ・ドアー(上) | |
著者 | 浮草堂美奈 | |
価格 | 800円 | |
ジャンル | ファンタジー | |
詳細 | 書籍情報 |