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芸術的にも高い価値がある作品です。 一枚一枚、描きこまれたハチドリの羽が美しい。 裏面も、ふと考えさせられるような絵があります。 手作りで折りこまれたという紙は、とても面白い構図をしています。 読者を、美しくもどこか悲しい世界へと誘ってくれることでしょう。 小さな誤解が生んだ、癒えない悲しみと、その果てを描いたお話です。 ハチドリは大きくなりたい、という夢を抱いていました。 大きくなることは、強くなること。 その一方で、見えなくなること。失われること… 魂はどこにあるのか、何を思うのか。歌が心に響く作品でした。 | ||
タイトル | ハミングバード(ジャイアント) | |
著者 | らし | |
価格 | 100円 | |
ジャンル | 掌編 | |
詳細 | 書籍情報 |
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京都弁!かわいい♡ さらに大阪の新喜劇のようなノリもあり、関西好きにはたまらん一冊です。 ちょこちょこツッコミが入るのが、また面白い塩梅です。 後日談のほうも、親しみのわく内容がてんこ盛りでしたよ。 女子高校生と妖刀。 生まれ育ちも価値観も、全く異なる二つの存在が、徐々に距離をつめていく。 想いと想いがどんな風に交叉するか、見物です。 | ||
タイトル | バイト代が妖刀(現物支給)でした!? | |
著者 | 夕凪悠弥 | |
価格 | 400円 | |
ジャンル | ライトノベル | |
詳細 | 書籍情報 |
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表紙が示すとおりの作品です。 暗い空、容赦なく降ってくる雨、そこへさされた傘。 人生晴れたり曇ったり、とはよく聞く言葉ですが 予期せぬ雨が降ってきたとき、どうするか。 どんな傘をさしますか、傘を支える芯は何ですか。 傘の描写は無いのですが、 (その一方で、ナメクジ、というワードはよく出てきます) それでも傘を思わせるような作品でした。 いろんな視点から書かれているけれど、その芯は一本、貫かれています。 降り注ぐ雨から作者の身を守ってくれたもの、それは執筆なんだと私は思いました。 読者を選ぶような作品かもしれません、でも、心の声が描かれてあるので、心に響くものがあります。 とても読みやすい文章なので、その分印象に残りやすいのは、間違いないです。 たとえば、波打ち際に打ち上げられたクラゲを見たときに、本作を思い出しました。 | ||
タイトル | 現代的非実在【創作怪異】物語 | |
著者 | 五条ダン | |
価格 | 500円 | |
ジャンル | 掌編 | |
詳細 | 書籍情報 |
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おろくの右目は、赤目になってしまっていた。 周りには見えないものが見えてしまう。 そのことで、悩み、傷ついてきた。 そして本来なら見ておくべきものが、見えなくなってしまっていた。 これは、目玉をめぐるお話、だけではない。 思春期まっただなかの少女の葛藤、 江戸で暮らす人々、そして地獄で暮らしをたてる存在達のお話でもある。 江戸と地獄、生と死、 どちらの世界についても、しっかり描かれてある。 だから、相容れない世界の境界が、はっきりわかる。 未知の世界は、こわいだろうか。 地獄の世界は、死という概念は怖いだろうか。 おろくは、境界線に立っていた。 現実とあの世の境界にいた。でもそれは、おろくだけではなかった! 両方の世界の理(ことわり)に理解を示し、 境界に立ち続ける者達の苦悩と、優しさが光るお話。 予想の斜め上をいく展開に、ドキドキしながら、 楽しくよみきることができました! | ||
タイトル | 赤目のおろく | |
著者 | 三谷銀屋 | |
価格 | 400円 | |
ジャンル | ファンタジー | |
詳細 | 書籍情報 |
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嘘とは何だろうか。 自分を守るため、ときには相手を守るためにつくる、バリアのようなものかもしれない。 『嘘つき』は悪いことかもしれない。 でも、少年のそれはあまりに真剣で、さしせまっていた。 少年は嘘の町で、理想の自分を築き上げたかったのだと思う。 嘘をつかなくとも、誠実に生きていけることを証明したかったように思う。 しかし、その願いは、ある想定外の出来事をきっかけに、ほころびを見せてしまう。 まったく私事の話になるが、私もまた、頭の中に嘘の町がある。 小説を書くにあたり、脳内では常に嘘の人物たち(キャラクター)が演劇を繰り広げている。 だから、主人公ペトレの気持ちが、手に取るようによくわかった。親近感を抱いた。 その驚きも、戸惑いも、切ないくらいの嬉しさも、全て。 ペトレは町にいられなくなった。文字通り、『嘘の町を出ていく』 けれどその足取りは、確かなもので。その眼差しは、しっかりと未来を見据えていて。 終わらない物語は無い。 でも、この本で導かれた終わりは、一読者である私の心をも満たしてくれるものだった。 物語など所詮、作り話で、嘘にすぎないものかもしれない。 そうだとしても、このお話は、嘘を越える物語であるように思う。 | ||
タイトル | 嘘の町を出ていく | |
著者 | らし | |
価格 | 300円 | |
ジャンル | ファンタジー | |
詳細 | 書籍情報 |
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人に知られてなくても、ちゃんと生きている、 そんな海の生物たちに、空想の衣をふんわりかけてお話にしたような本でした。 確固たる知識が随所で光っていて、驚きました。 海の生物視点の語りで話が展開するのも面白かったです! 好きがなせる技を感じました。 海から生物が生まれた創世記のロマンがあれば、海に最も近い人間、漁師の習わしに関するお話もあって、 どの短編も、字体からこだわっているような作品ばかりで、 まるでマジックショーを見ているかのような感覚もあり、読んでいて楽しかったです。 頭ではわかっているんです、これは、生物からできたお話なのだと。 でも心は、このお話があって、このお話の生物がうまれたのではと錯覚してしまう。 知らない生物の名前ひとつ、愛おしく思ってしまう。 深海の神秘を魅せる本でした。 | ||
タイトル | 海嶺渓異経 | |
著者 | 孤伏澤つたゐ | |
価格 | 450円 | |
ジャンル | ファンタジー | |
詳細 | 書籍情報 |
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見晴らしの良い草原に薬屋はある。 そこに、様々な悩みを抱えた人々が立ち寄る。 クレオールは彼らの話に耳を傾け、悩みの本質を感じとり、世にひとつしかない薬をつくるお話。 不思議な世界観にひきこまれます。 しかし、重要なのはやはり、クレオールは一人で薬をつくるわけではない、というところでしょうか。 空の欠片を空から取ってきてくれる、「空集め」が必要なのです。 空の欠片を毎日のように持ってきてくれるのは、翼の生えた「空集め」の青年。 当たり前のように、日々、空集めから空の欠片が供給されます。 クレオールと空集めの青年は、仕事の話も、たわいのない会話もします。 だけど、読者はだんだん気になり始めるのです。どうして空集めは、空を集めているのだろう、と。 当たり前の光景に、ふと疑問を抱く。その誘導がとても絶妙で、引きこまれるまま一気に読みきってしまいました。 オンとオフでギャップがあるクレオールの性格も魅力的ですし、 ぶつくさ文句を言いながらも、クレオールを気遣う空集めの青年も良いです。 元々私は、空が好きで、それでこの本を手に取ったのですが、 空を好きだと言ってくれる二人のことも好きになっていました。 やはり圧巻は、エンディングにあります! 気に入りました。 二人の友情に、幸あれ。 | ||
タイトル | 薬屋のクレオール | |
著者 | そらとぶさかな | |
価格 | 400円 | |
ジャンル | ファンタジー | |
詳細 | 書籍情報 |
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巫女、ティルヴィシェーナがとにかく可愛かったです。 その素直なところも、素直であるが故の強さも、あやうさも。すべてひっくるめて。 この物語は、大まかに説明するなら、 神話や魔界が支配するファンタジー世界に存在する帝国に、ある日突然、SF(メカ)が突っこんできたというもの。 興味深いのは、メカを動かす者も、帝国で魔法を扱う者も、全員、同じ“人間”であるということだ。 異なる環境で育ち、異なる事情を背負っている。けれど意思疎通のできる、見た目も近い、人間同士。 ファンタジーとSF、本来なら相容れないはずのこの二つの世界が、ぶつかり合ったとき、どんな化学反応が起きるのか。第一巻から読みごたえのある、面白い作品です。 互いの世界観が丁寧に描かれてあって、良かったです。 レーザービームや、AIが活躍するバトルも見物です。 技術力があるがゆえの慢心が危機を招いてしまうところなど、とてもリアリティがあって良かったです。 新天地に足を踏み入れる、その第一歩がどうなるか。 カズキとティルの距離もふくめ、気になるところです。 試製第一巻ではありますが、まとまったエピソードでくくられてあったので、すっきり読みきることができました! | ||
タイトル | 神域のあけぼし(試製1巻) | |
著者 | 夕凪悠弥 | |
価格 | 500円 | |
ジャンル | ファンタジー | |
詳細 | 書籍情報 |
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序文を読んで、信じられない、と思いました。 まさか、ヒツジが。でも、それが全てで。 研究員が見つけ出した理論は、ヒツジによって実現された。 ヒツジはあくまで、作られた目的に沿うように行動する。 しかしその得意な能力ゆえに、想像をはるかに越える奇想天外な事件が引き起こされていく。 序文を読んだとき、わかる部分もあれば、わからない部分もありました。 なめらかに語りかけるその文体は、まるで何もない雪原をスキーで滑り降りるかのような読み心地で。 夢中になって本を読みすすめ、読み終えた頃には、全ての意味がわかるようになっていました。 実によく考えられた作品でした。 ヒツジはただ、ヒツジとして存在していた。 ただ人間が、欲と嫉妬にまみれた人間が、ヒツジをめぐり争い、勝手に滅んでいく。 その様は奇妙で、でも、恐ろしいほど納得のいく形で。好奇心をかきたてられるようで。 お話は、男性トキと少女パーリィ、それぞれの視点で進められます。 二人とも、まったく背景が異なる。異なるけれども、ひとつの共通点があって。それが、あまりに強烈でした。 自我がない。 存在しているけれど、役割をおってはいるけれど、それでも自我がなかった、失われていた。 やってはいけない事も着々とこなす彼らは、強く見えるだろうか。しかしそれは、見た目だけで。 誰かにしがみついていなければ、いけなかった。でも、手をのばしても、相手には届きそうにもなくて……。 自我がない主人公たちを、悪がよどむ町を、ヒツジが横切っていく。 行き場のない感情がどうなってしまうのか、見物です。 凄まじさと衝撃に、最後までやみつきになるお話でした! | ||
タイトル | Eg | |
著者 | N.river | |
価格 | ¥500− | |
ジャンル | 純文学 | |
詳細 | 書籍情報 |
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衝撃的なお話でした。 流れてくるメロディーに不協和音が混じりだすような、 噛み合わなくなった歯車に、亀裂が走るような。 これは危ない、と気づいたときには、もう後戻りはできない。 最後まで目が離せない展開でした! このお話には、五人の登場人物がでてきます。 (登場人物の個性の強さが、このお話の面白さといっても過言ではないでしょう) 作中では何度も、家とはなにか? が問われます。 五人それぞれに、家の概念を打ち出していきます。 けれど途中から、六つ目の家のことを考えていました。私個人にとっての家とは、ということ。 六つ目は完全に本の外の話です。直接本に書かれてあるわけではありません。 作中にさりげなく、『尼崎』と『同人誌』という言葉があるのを(別々のシーンで)見つけたもので、それで、思いを巡らせていました。 限られた期間でも、心ゆくまで本の世界を楽しめる、表現できる、居心地の良いスペースを提供してくれたのは、あまぶんでした。 六つ目の家、本当の答えを探すために、イベントに参加してみるというのも面白いんじゃないか、と個人的に思っていました(個人的にね!)。 話が脱線してしまいましたね、『田中建築士の家』の感想に戻ります。 最後まで読むと、どうしてああいう出だしだったのか、そして青と白のシンプルな表紙の意味がわかると思います。 ラストシーンは、まさに複数の解釈ができるもので、非常によく考えこまれたストーリーでした。大人の文学です。 そこに家があったとしても、家であり続ける保証はどこにもない。 それでも、人々は家に集まる。家が壊れたって、また違う家を建てて、集まる。 集まるからこそ、始まる人間関係がある。 真実を知ったから、近づけることもあれば、永遠に修復できない亀裂が入ることもある。 光だけでなく、闇も描かれてあるからこそ、現実味があって、深く味わえる作品でした。 | ||
タイトル | 田中建築士の家 | |
著者 | にゃんしー | |
価格 | 800円 | |
ジャンル | 純文学 | |
詳細 | 書籍情報 |