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空を飛べるからといって、自由だとは限らない。 大切にしているものが、同時に彼らを縛るものでもある。 空を飛べる子供たちと、飛べない子供たち、そして、かつて子供だった大人たちが、空を飛ぶ「方舟」を舞台に繰り広げる和風ファンタジー小説。 登場するのは、方舟の外を飛び、時に命をかけて戦う「羽人」と呼ばれる子供たち、体を売る少年少女、飛べなくなった大人たちといった人々。 地上を追われた彼らにとって、この「方舟」だけが残された世界で、この小さく脆い人工の世界を維持するために、あらゆるものが犠牲となり、あらゆる自由は奪われ、彼らはこの「方舟」という世界の一部として機能し続けている。そんな中にあっても、彼らがそれぞれ大切なものを守ろうとする姿が描かれている。 誰しも特別なもので在り続けることはできず、大切なものを守れるほどの強さには及ばず、捧げられるものには限りがあり、結局のところすべてを失うしかないのかもしれない。 そんな悲しい予感が、物語全体に霧雨のように降りかかっているのだけれど、一方で、物語を未来に繋ごうとする登場人物たちの意志が随所に感じられて、それが真ん中にすっと通る芯のように心強い。そして、丁寧に選び取られた言葉、春先の清流のような文章が、この物語を優しく彩っている。 この物語の中で、何人かの登場人物は、名を変え、姿を変え、己の在り方を変えていく。それが、とても美しい。自分の身ひとつ自由にはならない世界に生きる彼らが、あらゆるものを失いながら自分の在り方を選び取っていく様を、見てほしいと思う。 (ところでこれは思い切り心の声なのだけれど、登場人物の中では「大人」に分類される「柊」さんを全力で推させてほしいんだ...咲祈さんの御本はどれも素敵なのだけれど、この1冊を選んだのは彼がいたからです。なんかこう、ずっしりとめんどくさいもの色々抱えたややこしい大人が好きなんだ...) | ||
タイトル | 羽人物語 | |
著者 | 咲祈 | |
価格 | 900円 | |
ジャンル | ファンタジー | |
詳細 | 書籍情報 |